サマーエンド・ラプソディ
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


夏と言えば、
結構な暑さが まかりこす日本の風土から、
学生さんなら夏休み、
大人の皆様であってもお盆を挟んでの長期休暇がいただけて。
それを利用しての旅行というのが一般的な休養なれど、
風光明媚な海や山といったリゾート以外の場所にても、
様々なバカンス向けのイベントが催されもしており。
例えば花火大会に夏祭りは、何も海や河川敷だけで開かれるもんじゃあないし。
祭りと言えばで、見本市的なフェアだのフェスティバルだのも催されるし。
夏休み限定、テレビ局主催のアミューズメントパークが乱立すれば、
忘れちゃいけない、ロックやポップス、ジャズなどなど、
音楽の野外コンサートもあちこちで盛んに催され。

 「場所によっては、
  陽が落ちてからの、涼みがてらな人出をあてこんだ、
  お店やフードコートとかもありますものね。」

 「そうそう。ビアガーデンとかね。」

とはいえ、ここ数年の日本の猛暑レベルは半端じゃあないので、
会社帰りのお人向けのはにぎわっても、
わざわざ出ておいでってクチを開拓するのは難しいことだろう。

 「節電の気風に乗っかった訳ではないのでしょうが、
  公共の施設で皆で涼んで省エネをというキャンペーンが増えましたよね。」

判りやすいし、賛同もしやすい。
どこでもそうなのかは知らないが、
そういうアイデアを盛り込んだ企画には
補助金が出るって地域があったんじゃなかったかと。
夏休みのイベントといやぁ…から、
この時期には難しかろう、
店舗や施設への集客のノウハウなんていうお話へ発展させるところが、

 “本当にこの方々、あの女学園のお嬢様たちなのかしら。”

先々で日本経済を支えるだろう、辣腕な経営者や起業家を育てるための、
啓発ゼミとか英才教育サークルつながりのお友達じゃないのかと、
お初に接する格好で居合わせたお人らへ
そんなことをば思わせる会話になっておいでなお嬢様がた。
見栄え風貌は文句なしに瑞々しい美少女たちなのだが、
中身は所により達観したおっさん、もとえ、
一通りの人生経験を積んだ存在の記憶も持ち合わす、
何ともややこしい人格をしておいでの方々なので…と来れば。
文面を追っておいでのお客様にはもうお判りですねの顔触れが、
彼女らにしてみりゃ屈託のない…と言いますか、
飾り気のない日常会話を忌憚なく交わしていただけなんですが。

 “…まあ、これから
  格調高きクラシックバレエの公演が始まるって楽屋で
  しかもしかも年端も行かぬ娘らが
  持ち上げる話題ではなかったかもではありますが。”

そう。
最初の流れから、ちっとばかり話が逸れてしまったけれど。
こちらもある意味、夏と言えばの公演の、
しかも千秋楽の舞台が、今しも幕を上げるところ。
結構な知名度を誇る某バレエ団の定期公演であり、
主役級の方はさすがに個室待遇で、集中を高めておいでなのだろうが、
こちらはその他一同 扱いの出演者たちが詰める大楽屋。
ともすれば喧騒に近いレベルの声と物音に満たされた、
雑然としたところじゃあるけれど、
それでも…それなりの緊張感を帯びたざわめきに満ちていて。
ロビーの空気を染めているワクワクという期待感とは、
多少ほど色合いが異なる雰囲気なのも致し方ないのだが、
これでも初日の張り詰めように比すれば落ち着いたものだそうで。
名前付きの役であることから、
彼女用という鏡のある化粧前の席を用意されてた久蔵お嬢様もまた、
役柄の衣装を着せてもらい、メイクも済んでの、
今は待機中のお姿が何とも落ち着いておられるのは…

 “…今に限った話でもないんでしょうねぇ。”
 “きっと初日も変わらない顔してたんじゃあ。”

そこはさすがに、
激励にとお邪魔しているお友達お二人にも
やすやすと想像がついておいでというもので。
恐らくのきっと、地球最後の日にあっても泰然自若でいるだろし、
宇宙人来襲による事態だというならば、
その元凶を返り討ちにしてくれようぞと飛び出してってるところかも。

 “いやいやいやいや、それはちょっと。”
 “あ・でも、そっちの場合は わたしもお供しちゃうかもですが”

  ヘ、ヘイさん?

  シチさんは勘兵衛さんと逃げてくださいね。

  いやですよぉ、アタシも一緒に戦います。
  つか、勘兵衛様も居残りしそうな気が
  してくるじゃありませんか…なんて。

お堅い方面ばかりじゃなく、
こういう方向へ逸れたりもするところは、
やっぱり柔軟な十代たる所以かも。(そ〜かな〜?・笑)

 それはともかく。

結構大きなバレエ団の定期公演。
夏場はいつもこれとお決まりの“真夏の夜の夢”で、
しかもしかも、今年は準主役、貴族の娘ハーミアの役をもらえた久蔵お嬢様。
そうと聞いた折には、
妖精王オベロンの使い、いたずらっこのパックかと思ってたと
白百合さんが口にしたものの、
女学園の演目でもあるまいに、
優秀有名な男性の踊り手もたんといるので、さすがにそれはないそうで。
親の決めた縁談を嫌い、好きな男と駆け落ちして森へ迷い込むが、
パックの悪戯で振り回されてしまうヒロインなので、
身にまとっておいでの衣装も、
ひらりんと軽やかで、且つ、華やかなドレスを模した可憐なもの。

 「でも、表情も出さねばならないのではないのですか?」

いっそ、妖精王の妻タイタニアのような威厳のある役のほうが無難かもと、
相も変わらず、緊張しているようにはとんと見えないお友達の頼もしさへ、
感情描写のほうは大丈夫なのですかと、ひなげしさんが問うたところが、

 「………。(頷、頷)」

こっくりと頷いた紅ばらさん。
そのまま…目元を伏せ気味にしてたわめ、
口角を上げてやや顎をひくと、

 「うあ、かわいいvv」
 「きゃあん、三木先輩てば余裕♪」

彼女らの周辺から立った こそこそこそっというささやきが、
水表(みなも)へ落ちた滴の描く水紋のように
さわさわさわ…と隅々まで広がってゆく威力の凄まじさ。
金の綿毛がけぶる陰にて、
形よく伏し目がちになった目元の愛らしさへ、
品のいい口元からすべらかな頬へと滲む、淡くて優しい可憐な微笑みは、
それはそれはバランスよく調和しており。

 「……うん。確かに可愛い。」
 「つか、よくも身につきましたねぇ。」

しゅぱっと引っ込める歯切れのよさがむしろ笑えたらしいこちらの二人へ、
そおとお顔を寄せると、

 「兵庫と練習した。」

悲しいお顔は口元を下へたわませればいいと、
そんな付け足しまで話してくれつつ、うんうんと感慨深げに何度も頷くあたり。
久蔵殿ご本人にしてみれば、
バレエのポーズの一種と同等…という扱いの笑顔であるようで。

 『…兵庫せんせえも大変だ。』
 『というか、さすが上手に言いくるめたなぁ。』

本人の前では黙ってやり過ごしたものの、
さしもの白百合さんやひなげしさんでも、
そこはやっぱり感心してやまなんだそうだが、
それもまま今更なのでさておいて。

 「千秋楽ということは、済んだら打ち上げとかあるんでしょうか?」

聞くと“さあ?”と小首を傾げる久蔵であり。
格式高い雰囲気の公演じゃああるけれど、
関係者にしてみれば、大人数での一致団結して成功した舞台。
〆めには解放感いっぱいに成功を祝いたくもなろうから、
主演格や監督格の方々はともかく、
若手の参加陣は盛り上がりたいに違いない。
ただ…そういう空気はあったとしても、

 「未成年だ。」

もっとずっと幼い子供のように、自分のお鼻を指差した久蔵だったのへ。
そか、最終の舞台がはねてからともなると、
もう遅いからお帰りとなるだろと言いたいらしく。
そこはこちらの二人へも納得がいく。
今時の高校生ともなれば、
宵が更けてからであれ結構出歩いてもいるものだが、
ここは都内だ、それはまかりならんという条例が一応はあるし、
そこへ加えて、こちら様は三木財閥の御令嬢。
間違いがあってはいけないからと、
舞踏の技術や何やという面での扱いはさておき、周囲もそこは気を遣うらしい。
お誘いの声はないということでもあるらしいなと察した七郎次と平八。
にっこり笑顔を見合わせての、うんうんと頷き合ってから、

 「じゃあ、帰りに“八百萬屋”へおいでよvv」
 「アタシたちでの打ち上げしましょvv」

だって、観客側の自分たちも
きっときっと興奮するに違いないデラックスな舞台だ。
お疲れ&頑張ったねって、思い切り弾けたくなるに違いない。
ああでも、お疲れしちゃうかもだから、今日はやめとく?
そうと訊かれて、

 「〜〜〜。(否、否)」

思いもよらなんだお誘いに、
やや呆然としつつも、
そんなことないないとかぶりを振った姫様へ、

 「着替えや何やあろうから、久蔵殿は直接おいで。」
 「兵庫せんせも連れといでねvv」

アタシたちは先に行って準備しているからねと、
白百合さんこと七郎次お嬢様がにっこりと頬笑めば。
水色の双眸がたわんだのへ、

 「〜〜〜〜〜。///////(頷、頷、頷)」

こっちは心からの“嬉しい”だろう、
白い頬を仄かに染めて目元を潤ませる紅ばら様であり。
それへとやはり周囲が“きゃぁあんvv”と沸いていたりもし。
そんなこんなに沸いておいでの楽屋だが、席への案内を告げる開場のブザーが鳴って、
あらあら、それじゃあ わたしたちも向こうへと、
セミフォーマルだろう、それぞれに愛らしいドレスアップをし、
明るい色合いの髪もおしゃれにまとめておいでのお友達二人が立ち上がるのへ、
うんと頷くという、幼い所作での目礼を送ったハーミア様。
初夏の花を編み込みのカチューシャへと挟み込んだ髪飾りが揺れて、
今だけは何とも可憐なお姫様にしか見えなんだのであった。


  “……そんな、語弊のある言い方をして。”







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  *しまった、そんな大層な話でもないのに尺が伸びちゃった。
   余談をするくせを何とかしたい今日この頃です。(今更〜)


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